病院の喫煙室に向かって歩いていると、 静止しているパジャマ姿の老人に呼び止められた。
「あのぅ、すみません。一本、めぐんでいただけませんか?」
風体から察するに、八十歳前後のお方と見受けた。
院内では健康保護法に準じ、数年前から煙草の販売を止め、
近所にあったコンビニは今年潰れてしまったため、
煙草を入手する為には見舞いに頼むか、1キロ程離れたコンビニに行くしかない。
恵んであげるのは全く抵抗がない。
だがしかし、このご老人、肺を患っての入院だとしたら、恵むことは道義的にいかがなものだろう?
いやぁでも通りすがりだし、まあいいじゃん、てな勢いで渡した。
私の吸っている煙草は、いわゆるオンナ煙草、ピアニッシモ1mg。
顔が「黄金バット」にソックリなこのご老人にとっては
物足りないどころか、ココアシガレット並みのフェイクにしか 感じないだろう、と
逆に恐縮しつつ、手渡した。 勧め、ライターを着けると、煙草を挟んだ指の爪が真っ白だった。
しかし、なぜかコソコソしてる。
「家族に見つかると大騒ぎになるんで」
やっぱヤバいんじゃ?と念を押すと、なんか、はにかんでた。
爺さんは、実に旨そうにふかしながら私を煽て上げた。
「本当に善い方に出会えて幸せです!貴方に後光が射していました!」
「おぉこれはメントールですな!丁度良かった!うまい!」
「ちょっとした事故でこんなところに幽閉されましてー」「でも乞食と一緒ですね…恵んでもらうなんて~」
一々敬語で。
嬉しそうに話してくるのだが、
私はほんの一服程度のつもりだったので、適当に相づち打っていると、
「ワタシのことはおかまいなく! 恵んでいただいたコレを大事に吸っていきますんで」
別れ際にもう一本渡して部屋を離れようとすると、 再び深い深いお辞儀を。
逆に申し訳ない気持ちになりながら、その場を離れた。
(2007年06月04日)
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