2010年7月28日水曜日

此岸にて (3)

姉と父を病院から連れて帰る道中、今後について話したのだが、
「遺言は、机の2段目の引き出しの奥に、ビシーッと入れておくから」
ふとこの言葉を思い出し、姉に話した。「あるのかな…」

とにかくメモ魔というか、細かい字で何でも記録しておく人だった。
毎日の天気、旅行の行程時間、小遣い帳、気に留まった英単語、何でも細かく記す。
そんな人だから、先の言葉どおり用意してある筈と思い、

机の2番目の引き出しを覗くと、奥に入っていたのは、一本のカルパスだった。
落胆しつつも、机・箪笥の引き出しを審にかき回す。

子どもの頃二人で行った旅行の予定や日記が出てきたり、懐かしいものは色々あるが、
しかし目的のものは一切出てこない。

昨年帰省したとき、釘は刺しておいたんだ。健康診断は受けてくれ、と。
元から病気知らずで、知る限りでは歯医者とギックリ腰以外で医者に罹ったことがない。
勤めている頃は定期検診があったので、自己管理はせずとも良かったのだが、
退職してそろそろ20年、老化にともなって衰えも見受けられたのと、
時折母から聞かされる父の体調不良具合も心配だったので、
急に何かあってもコッチは早々動けないし、なにより体調管理のために医者に行けと。
まあ確かに、今さら自分がどれぐらい傷んでいるのかなんてワザワザ知りたくはない、って気持ちも判らんでもないのだけれども。

パソコンも立ち上げて、ファイルをつぶさに見てまわる。
「ドロドロからサラサラへ」なんていう日経ヘルスか何かが制作した血液関係のDOCも入っていた。
しかし遺言めいた結局見つからなかった。

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